馬の豆知識

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馬の蹄

常歩のタイミングを説明します

「蹄なくして馬なし」という言葉があるように蹄というのは馬にとって非常に大切なものです。

どんなに優れた能力を持っている馬でも蹄が悪ければその能力を十分に発揮することができません。

馬にとって蹄は「第二の心臓」とも言われるほど大事な役割をしており、蹄の病気が原因で命を落とすこともあるほどです。

ここでは馬の蹄について解説します。

蹄の進化

馬の祖先は今から約5000万年前にはすでに北アメリカ大陸で存在していたと言われています。

この時代の馬は前肢の指が4本、後肢の指は3本あり、それぞれの先端にツメを持っていました。

ヒラコテリウム、またの名をエオヒップスというこの祖先はキツネのような体形をしていたと推測されています。

その後、徐々に体は大きくなり約4800万年かかって前肢、後肢ともに1本の指だけで地面につくように進化していきました。

そして、1本の長い指を持つ馬の先祖(エクウス)はついにその指のツメ、つまり蹄で走るようになりました。

草食動物である馬は肉食動物から逃げる時に1秒でも速く走るためには単位時間あたりの歩数(ピッチ)を増やし、歩幅(ストライド)を伸ばさなければいけません。

そこで、馬は速く走るために徐々に都合のよい体型に変化し、蹄も同様に進化してきたのです。

そのために指端にかかる負担が大きくなり皮膚のままでは耐えることができなくなったことからツメの底、すなわち指底が発達して現在のような蹄に進化したと考えられています。

いずれにしてもこの蹄は皮膚の一部が角化して生まれたものです。

蹄の表面と裏側

蹄の名称

蹄の角質はケラチンというタンパク質でできています。

馬の蹄は前方より蹄尖(ていせん)、蹄側(ていそく)、蹄踵(ていしょう)に分けられます。

このうち蹄尖と蹄側は蹄壁(ていへき)が厚く、蹄の内部も蹄骨が葉状層によって蹄壁と強く結合しているため硬い構造になっています。

対して、蹄踵は蹄壁が薄く内部は蹄軟骨や跖枕(せきちん)といった軟らかい組織からできています。

蹄の内部構造

蹄の断面

馬が歩いたり走ったりしてかかった体重は繋(つなぎ)を構成する連続した柱である骨(繋骨、冠骨、蹄骨)へと伝わり、次にその体重は蹄真皮を通って蹄壁に伝わります。

蹄骨は体重の負担がかかったときにバランスを維持するために円形になっています。

この蹄骨の前面には伸腱といわれる蹄を前方に伸ばす腱がついており、後面には屈腱という蹄を後方に屈する腱が付着しています。

遠位種子骨の後ろに伸びている深指屈腱は過度な負担を特に受けやすくなっています。

蹄壁の部分は感覚神経が走っていないので人間の爪と同じで痛みを感じませんが、白線の内側に入ると神経が走っている知覚層になるので、蹄真皮の部分などに釘を打ち込んだりすると痛みを感じます。

また、この内側の肉質の部分は蹄壁を養い、蹄壁の角質を作る部分でもあります。

蹄機作用(ていきさよう)

歩行時など運動する時に肢が着地し、蹄に体重がかかると主に蹄踵部の軟らかい組織が外側に広がります。

そして、肢が地面から離れると外側に広がっていた部分がまた元に戻ります。

この蹄の開閉作用のことを蹄機作用(ていきさよう)といいます。

蹄機作用の説明画像

蹄の中には多数の血管が入り組んでおり、蹄まで血液が流れ込んできます。

しかし、馬は体重が重いことや蹄は心臓から遠い末端に位置していることから心臓の働きだけでは蹄先まで血液が十分に行き届かなかったり、古い血液を再び心臓まで十分に戻せません。

そこで、蹄機作用によって蹄が拡大や収縮を繰り返すことにより蹄の内部の血液を心臓まで戻す手助け、いわばポンプのような役割を果たしているのです。

この働きにより、運動することによって蹄の先まで常に新鮮な血液が行きわたることになります。

肢がむくんだ時などは軽い運動で負荷を与えるとむくみが解消することがありますが、それはこの蹄機作用によって血液の循環が促されることが大きな理由のひとつになっています。

馬は歩けなくなると命に関わるというのは蹄機作用が行われないことにより、蹄内に古い血液が停留し組織が壊死してしまうからというのも大きな原因のひとつです。

また蹄機作用には蹄が変形することにより、着地時の衝撃の一部を吸収するクッションのような役割も持ち合わせています。

馬にとって蹄が「第二の心臓」と呼ばれるのはこういった理由があるからです。

蹄の病気

蹄には様々な病気がありますが、いずれも早期発見や早期治療が大切です。

そして何よりも普段の手入れが蹄病予防として重要です。

ここでは蹄の代表的な病気を取り上げます。

馬の蹄

蹄にヒビが入ったり割れたりする病気です。

特に冬場などは乾燥するために蹄がもろくなり裂蹄になりやすくなります。

ほとんどの場合、地面に着地する蹄負面の方から上側の蹄冠部に向かって縦方向に発症し、亀裂のひどいものだと知覚部まで達し、出血や疼痛を伴い歩様が悪くなります。

裂蹄の原因は、冬場に乾燥するために起こる場合が多いので蹄油を塗って乾燥を防ぐなどの予防が大事です。

また乾燥の他に、堅い地面での運動が原因で発症する場合もあります。

前述したように馬は蹄機作用によって蹄の内部に血液が十分に行き渡るようになっています。

しかし、肢に故障などを発症し動けずに他の肢で体重を負重し続けると蹄の内部の血液の循環が阻害されて蹄の内部に炎症が起こり激しい疼痛が起こります。

これが蹄葉炎です。

症状が重くなると蹄と蹄骨の結合が悪くなり、蹄が変形し蹄骨が蹄の裏側へ抜けてくることもあります。

馬は体重が重いために病状の進行を止めることは難しく、重症になると命を落とすこともある病気です。

蟻洞は蹄壁の奥深くに空洞ができる病気で、主に蹄尖部に発症します。

蟻洞という病名は蹄が蟻の巣のような空洞に見えることからこういう名前が付けられたようです。

蟻洞の原因としては馬房環境が不衛生であることや蹄の手入れ不足によって真菌(カビ)や細菌による白線部の腐敗に起因していることが多いです。

真菌は人間でいう水虫に似ており蹄壁の内部を食べてボロボロにしてしまい、細菌は蹄の表面から徐々に角質を溶かして空洞を作ります。

蟻洞の原因はその他にも蹄尖部に荷重がかかる外傷性が要因のものや蹄葉炎に起因するものもあります。

治療法としては薬を塗って殺菌、消毒したり削蹄(蹄を切る)し患部を空気にさらすことによって真菌や細菌を殺菌します。

ただ、蹄を深く切ってしまうと蹄が伸びるまでに時間がかかるために完治には期間を要する病気なので、馬房内を清潔に保ち蹄の管理をキチンとするなどの予防が大切です。

蹄叉の部分が腐り悪臭をはなつ病気です。

厩舎や放牧場などが不潔な環境であったり、蹄底に汚物がつまっていたりと蹄の手入れ不足が原因で発症します。

この病気になると蹄叉の部分がボロボロと崩れやすくなり、悪臭が出て化膿した液がにじみ出てきます。

悪化しひどくなると出血し歩様が悪くなります。

予防には厩舎などの環境を清潔にし、蹄をキレイに手入れしておくことが大切です。

石などの硬いものを踏んだ時や走っている時に後肢の蹄の先端を前肢の蹄底にぶつけた時などに蹄底の知覚部が圧迫されて起こる炎症や内出血のことを言います。

蹄底の浅い馬や肢勢の悪い馬、または後肢の踏み込みが良すぎる馬に発症しやすい疾病です。

前の蹄に発症することが多く、蹄に熱を持ち内部が化膿している重症な例では歩様が悪くなります。

予防策としては馬道にある石などの硬い物質をあらかじめ除去しておくことが重要です。

蹄の手入れ

様々な蹄の病気を予防するには日常の手入れが重要となります。

また、日頃から蹄を注意深く観察したり触ったりすることにより蹄病の発生を早期に発見し、早期に治療することが大切です。

蹄の手入れ

◆ 蹄を清潔に保つ

蹄を不潔な状態で放置しておくと蹄叉中溝や蹄叉側溝に汚物や糞尿(酸やアルカリ、アンモニア)や土、泥などが詰まったままになってしまいます。

これによって汚染された水分が蹄の内部に侵入し、蹄質が悪化することによって蹄病の発症の原因となります。

したがって蹄は常に清潔な状態に保つことが大切です。


◆ 蹄を洗う(蹄洗 ていせん)

運動後、または馬房から出した直後などには特に蹄が汚れているので蹄を手入れします。

蹄壁のみを洗うのではなく蹄の裏側を裏堀りして蹄叉中溝や蹄叉側溝に詰まっている汚物を除去し、蹄底全体を入念に洗浄する必要があります。

また、手入れをする時に蹄壁を触ることによって熱を感じた場合、蹄に何らかの異常があると考えられます。

慣れないころは触って熱を感じるのは難しいかもしれませんが、毎回触っていると熱を持っているかどうかが分かるようになるので手入れの時は常に脚元を触るクセをつけておきましょう。


◆ 乾燥や湿潤から蹄を護る

人間も冬になると乾燥して肌がカサカサになって肌がひび割れしたりしますが、馬の蹄も同じで乾燥するとひび割れ、すなわち裂蹄を引き起こします。

冬場には手入れの時にお湯を使用することが多いと思いますが、お湯は必要以上に水分を蒸発させてしまうために蹄を洗った後にはすぐに蹄油を塗布し、乾燥を防止しなければいけません。

人間が乾燥防止のクリームを肌に塗るのと同じような感じですね。

また、夏季は蹄の過度な湿潤によって蹄質が軟弱化し蹄叉腐爛や蹄壁欠損(蹄壁の一部が欠けること)を起こしやすいです。

蹄油は蹄壁だけでなく蹄底にも塗布しましょう。

馬にとって蹄はとっても大切です。
シッカリお手入れしてあげましょうね♪